文章で稼ぐ贅沢

作詞からプログラミングまで、文字を並べて生きる物書きのひとりごと @ 逗子

カテゴリ: 目黒・恵比寿

新緑がまぶしい5月のはじめ、久しぶりに目黒の坂道を歩いた。長いあいだ暮らしていた街の風景は、ところどころに新陳代謝が垣間見えるけれど、懐かしさには何も変わりがない。

出かけた目的は、ホテル雅叙園東京で開催されている「福ねこ at 百段階段」 〜和室で楽しむねこアート〜を見ること。重要文化財である百段階段の豪華絢爛たる和室に、現代アート作家たちが猫をモチーフにアイデアを競う作品が1,000点も飾られているとあっては、猫好きには居ても立ってもいられない。

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靴を脱いで、ひんやりした階段を上っていくと最初の部屋。365体の誕生日猫たちが並んだ中から、マイバースデーにゃんを見つけた。

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どのアーティストの猫たちも個性的で、ユーモアたっぷり。しかも豪華な絵画とのマッチングが素晴らしく、誰もがカメラを向けてシャッター音を鳴らしまくっている。

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おそらく一番人気だったのは、石渡いくよさんのコーナー。ひな壇の上で酔っぱらって笑い転げている猫の雛人形たちが可愛すぎて、他の部屋に移動するのに後ろ髪を引かれるほどだった。

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ふてぶてしくて、福々しい猫。
ツンデレで、野性味あふれる猫。
妖気を漂わせながら、おバカさ満載の猫。
何千匹のニャンコたちを見ているうちに、はやく家に帰って与六の頭を撫でなくちゃと、ホームシックになってくる。

やっぱり我が家のメタボな笑い猫がいちばんだなと、親バカを再認識した悶絶アートであった。

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大龍

この写真を撮ったのは今年の4月14日だ。馴染みのラーメン屋が店じまいの片づけをしていると聞いて駆けつけたら、既に中はがらんどう。ドアの貼り紙には「頚椎の故障のため営業するのが難しくなった」という理由と、マスターの連絡先。どうしたらいいものか、とりあえず携帯のカメラで電話番号を写した。

目黒の三田通りにある大龍。恵比寿ガーデンプレイスに住んでいた頃、さんざん酔っ払った最後に立ち寄っては迷惑をかけた店。暖簾を下げようとする時刻に、赤ワインのボトルを持ち込んでは「来ちゃったー」と襲撃する。火を落とした後に「餃子がどうしても食べたい」と騒ぎ、マスターが晩酌用に取っておいた肴まで戴いてしまう困った客であった。

私はマスターをお父さんと呼び、マスターは「うちの我侭な娘でねぇ」と、居残ってるお客に私を紹介する。スタッフもお客も帰った後、2人で人生談義をしながら、気付けば空が白んでいることもよくあった。ホテルマンだったお父さんがラーメン屋を開くに至るまでの苦労話。奥さんとヨーロッパ旅行をしたときの思い出話。アルバイトの従業員たちが企業に就職して出世した話。何度も何度も同じ話を聞かされて、その度に酔っ払いの娘は感動して笑って泣いたものだ。

逗子に引っ越してから、訪ねる回数はめっきりと減ったけれど、ドアを開けた瞬間に満面の笑みを向けてくれるマスターは、もっともっと私のお父さんだった。閉店することを知らせてくれなかったのは、娘を心配させたくないという親心だったのだと思う。

一昨日の夜、当時の飲み仲間と久々に集った。ラーメン屋が寿司屋になったのは聞いていたけど、マスターはその後どうしているのだろう。頚椎は治ったのだろうか。
友人がポツリとつぶやく。「閉店してすぐに、亡くなったんだよ」。私は言葉が出なかった。不器用に言えたのは「いい人ほど、早く逝っちゃうんだね・・」だった。

引っ越した後でも、どうしてもっと顔を出さなかったのだろう。閉店の貼り紙を見て、どうしてすぐに電話しなかったのだろう。後悔は時間が経つほどに、胸に痛みが膨れ上がってくる。

今日はザーザー降り。しかも寒い。「どうだー、これぐらい泣いてみろー」と、お父さんが降らせている雨なんだろうね。最後の暖簾が閉まった後で、本当にごめんなさい。カウンター越しに乾杯したビールの味は、心の中で苦い涙の味になった。
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「もしもし? あのね、Kさん亡くなったのよ」
先ほど友人から届いた訃報に、返す言葉が見つからなかった。
「やっぱり」と答えるのか「えっ」と驚くのか、予感が現実になったことへ即座な対応ができなかったのだ。

恵比寿に住んでいた頃、週に3回は訪れていた小さなバー。
今年還暦を迎えたKさんは、単なるマスターと客との域を超えた家族のような存在だった。
彼の店に通い始めてまだ1年少々だけれど、スノッブな交友関係とセンスの良い手料理に触れることで、ワンランク上の女になれる気がしていた。

駅から歩くには遠く、常連たちしか知らない場所にある店。
カウンターに私1人が貸切状態の夜も多々あり、経営状態を心配したものだ。
Kさんは不治の病を抱えて、貯金もなく身寄りもいない境遇に愚痴をこぼす。若いうちに放蕩の限りをしつくしたことを悔やんでばかりいた。

年越しも1人っきり同士、暇つぶしの相手をしましょうと、今年のお正月はウエスティンホテルで和食を奢った。
「こんな美味しくないの食べちゃダメ。僕を料理人に雇って、あなたのおうちに置いてちょうだい」
僕と言う言葉を使い見た目は男性であっても、本音は誰より女性らしい感性の持ち主。
プライドが高く繊細すぎる神経には、病を抱え年金も貰えず、見栄は張りつつ店は赤字という生活が居たたまれなかったのだろう。

逗子に引っ越してからは月に2度程度しか行かなくなったことに、Kさんは「帰ってきてコール」を何回も寄越した。
「もう死にたい」という口癖を窘めて、近いうちに必ず顔を出して相談にのるからと約束した。

それから一週間後、Kさんがいきなり私の寝室に現れたのだ。
「ありがとう。さようなら」
きっと錯覚だろうと信じて、慌てて次の日にお店を訪ねたら、中は真っ暗で鍵が閉まったままだった。

そして今日届いた訃報。自宅で孤独死しているのを発見されたという。
あのとき飛んでいってあげれば・・、何時間でも電話の相手をしてあげれば・・と後悔が胸に押し寄せるけれど、たぶん彼の死は避けられなかったことも判っている。

独居老人の孤独死は悲しくて恐く、都会では身近に起こりうる、もしかして私にだって訪れるかもしれない現実なのだ。
暮らしの保護も受けられず亡くなっていく人たちは、どこの土の下に眠るのだろう。

長い間お疲れさま。やっと楽になったね。不死鳥のような白い雲が今日の空を飛んでいる。

不死鳥
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夕方から呑んで食べて、そろそろ日付が変わる時刻。家路に着くはずが、灯りに誘われてつい立ち寄ってしまう店がある。
日の丸自動車学校のはす向かい、目黒の三田通りにあるラーメン屋「大龍」だ。

大龍

自動ドアを開けると、おとうさん(って勝手に私が呼んでる)が「おっ、来たな〜」とニヤリとし、従業員たちも笑って出迎えてくれる。

「まったくこの人はねー、店が閉まってから無理やり入ってくるし、ワインは持ち込むし、朝まで居座るし、ほんと困った客なんだからさ、ハハハ」。
カウンターのお客に、おとうさんが私を紹介するときの決まり文句だ。

いつも大龍で注文するのは生ビールと3色餃子(海老餃子、しそ餃子、普通の餃子のセット)。
毎日作っているご自慢のチャーシューを少々と、野菜がいろいろ入った浅漬け。これがビタミンCたっぷりで美味しいのだ。
この浅漬けの作り方、京都の某有名料亭の花板さんから伝授してもらったそうで、おとうさんは引き換えに賄い食メニュー2〜3品を教えたとか。

浅漬け

ちなみに驚くなかれ、おとうさんは日体大&パレスホテルの出身。英語はネイティブ並みだし、体育会系子育てを受けた子供たちは、某一流企業で表彰状を貰うほどの優秀さだ。
そんなバックグラウンドは億尾にも出さず、「常連さんたちが毎日来てくれるのが嬉しいからね」と、お昼から深夜まで中華鍋を振って麺を茹でる。

しかし他店同様ご多分にもれず、おとうさんの悩みは求人難。なかなか良い応募者が来ない。
そこで学生時代にバイトしてくれた子たちにSOSの電話を入れると、「よし、わかった!」で快く助っ人に来てくれるのだという。
みんな昼間は学校の先生であったり、老舗ブティックの店員であったりしながら、、夜は勝手知ったる大龍のキッチンで学生時代に戻る。餃子の焼き加減なんてお手の物で、おとうさんの立派な片腕なのだ。

楽しいな。でも言いたくないけど言わなくちゃ。
逗子への引っ越しを打ち明けると、おとうさんはしばし呆然。「せっかく仲良くなったのに〜」としょんぼりした。

ごめんね。引っ越しても時々は襲いに来るからね。
だってまだ私、この店のラーメンを食べたことがないんだから!!
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お風呂上りに缶ビールを持ってベランダに出る。
まるで初夏の陽気だった昼間とは違って夜風はまだ冷たいが、湯船に浸かり火照った身体には心地良い。
2月24日の記事(ベランダからの東京案内)と同じアングルで、今度は夜景を撮ってみた。

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一番左が湾岸の夜景。今夜は曇り空なので、黒いベルベットに宝石を散らしたように見える。
左から2枚目はウェスティンホテル東京で、コーナーのライトは深夜0時に消灯。
その隣はTSUTAYA。金曜の夜は、カウチポテト用のDVDを借りにくるカップルが多い。
一番右はJOEL ROBUCHON(ジョエル・ロブション)。夜は妖精が住む館のように、ほんわりとライトアップする。

仕事の帰り道に見えた東京ミッドタウンタワーは、残念ながら私の部屋からは見えないけれど、きっとその方がいい。
オープンしたてのリッツカールトン東京で、缶ビールよりワインの誘惑に負けてしまうから。
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