郷土菓子から記憶をたどる小さな旅

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子どもの頃を思い出す、とても懐かしいお菓子を頂いた。四国銘菓の「一六タルト」。タルトとは愛媛県松山市の郷土名産で、松山藩主・松平定行公が、ポルトガル人から教わったと言われる南蛮菓子だ。

香りの良い柚子を練り込んだ餡子を、カステラ状の生地で巻いた上品なロール菓子。食べるとジャリッした口当たりがあるのは、白双糖(しろざらとう)別名:白ザラメという結晶の大きい砂糖を使っているからだ。

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私が生まれたのは愛媛県西条市で、3歳のときには神奈川県に引っ越してきた。藤沢市片瀬の小さな借家に住み、共働きの両親に代わって面倒を見てくれたのは、母方の祖母である。親戚やら友人やら、祖母と同じ方言を話す人が家に遊びにくると、必ずと言っていいほどお土産にくれたのが「一六タルト」だった。

昭和30年代の記憶をたどれば、文明堂のカステラが洋菓子の中でも上等な部類に入る。そのしっとり&フワフワとした生地に似て、しかも中に餡子まで入った円筒形のタルトは、小学生だった私には小躍りしたくなるほどのお土産だった。西条市では竹の皮に包んだ「ゆべし」という、白みそと柚子の入った餅菓子も有名だったけれど、子どもが好きな味ではない。お客様から頂いた紙袋から何が出てくるか、台所で待ち構えていたのを思い出す。

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一六タルトは切るのが難しい。祖母が不器用に包丁を入れるのを横から眺め、失敗した一切れを指さして、「欲しい欲しい」とお願いしたものだ。一六本舗のWEBサイトを見ると、切る手間を省くために昭和43年からスライスを開始し、売上が一気に伸びたという。大人になったら一本丸ごと食べてやるんだと思いながら、中学生あたりからは生クリームとイチゴのショートケーキに興味が移ってしまった。

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こんな懐かしい銘菓は他にも沢山あったような。雷おこし、かりんとう、和泉屋のクッキー、銀座江戸一のピーセンの青い缶には、エッフェル塔の絵が描かれていたっけ。昔の人たちは素朴で素材が良くて、ほんとうに美味しいものを知っていたのだなあと感心する。戸棚の奥にしまった古いアルバムを引っ張り出し、モノクロの写真を眺めながら、この週末は記憶の味めぐりをするミニトリップに出かけよう。

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