イゼッタに乗った夜

広告

大磯ロングビーチのヴィンテージカーレースに参戦していた友人から、午後8時過ぎに携帯メールが届いた。鎌倉のBANKに来てるんですけど、一緒にどうですか?という内容。
私は未だに引越しの荷物と格闘している状況なのだが、すっかりお腹が空いたことだし、家まで迎えに来てくれるというのは嬉しい。しかも彼の車は1955年のイゼッタなのだから一回は乗ってみなくちゃで、お誘いに応じることにした。

で、イゼッタ(Isetta)って何?。BMWが作った50年前の2シーターで、チョロQかカエルかというぐらい、可愛すぎるルックスの車なのだ。
もともと右のサイドミラーはないし、シートベルトもない。ワイパーは運転席の前に一本だけ。当然クーラーはないし、サイドの窓は三角窓しか開かないので、夏の暑さは推して図れる。

イゼッタ1
イゼッタ2
イゼッタ3
イゼッタ5
イゼッタ4

乗り込もうとして驚いたのは、この車はドアが前開き。おずおずとシートに座ると、遊園地の乗り物みたいに、コックピットがパカリと閉まる。

「いやー、大変でしたよ、この坂道。2速じゃ登らないんですよ。」
我が家は小高い丘の頂上にあるのだが、時速5kmの1速で必死に登ってきたらしい。

そしていざ鎌倉。ガーゴーと騒音と共に走り出す。サンルーフは全開ながらも室内にガソリン臭さが蔓延し、信号待ちの時などは今にもエンストしそう。カーブを曲がればバックファイアー!!
ボンネットから焼け焦げたような匂いがするし、爆発するんじゃないの?と問いかければ、「その時は2人で死にましょう」と余裕で笑われた。

スピードメーターを覗くと時速30km。
後ろの車が繋がれば、ルーフから手を出してお先にどうぞの合図をする。
でも滅多に出会えない車を観察するのが面白いのか、追い越さずに後ろからゆっくり着いてくる車が多いとか。隣には乗ってくれないけれど、指をさして笑う女の子にも彼は慣れっこだ。

BANKの窓から見張れる場所に車を止めて、日曜日のゆるゆるとしたバー。
彼はトニックウォーター、私は赤ワインをオーダーして、話の続きに入った。
一番気になるのはイゼッタの値段。運賃、メンテ代、保険代等をひっくめて200万円かかったという。
「それであと、何年ぐらい乗れるの?」
「うーん、わかりません。もしかしたら今年1年かもしれないし」。
ヴィンテージカーのためなら結婚も諦めるほど気合の入った彼には、幾ら札束を積んでも惜しくない恋人なのだろう。

赤ワインを3杯飲んで、また荷物の片付けに戻る時刻。
「送っていきましょうか?」の申し出を有難くお断りしてタクシーを呼んだ。
いや、乗りたくないわけじゃなくて、バックファイアーが怖いんじゃなくて、イゼッタはきっと女の子。彼女と2人で手をつないで、もといハンドルをしっかり握って、湘南の家路に向かって下さいね。

コメント

  1. こまちゃん より:

    憧れですよねぇ~>ビンテージカー
    ブガッティとかミウラとか乗ってみたいなぁ。

    って思ってたけど、今日の日記を拝見して
    「格好良いけど古い車」って事を再認識。w

    諦めましょうw

  2. やーさん より:

    車の目的は移動手段であるけれど、
    この手のものは、乗ること自体が目的なんですね。

    従って移動は二の次、乗ることが一番大事です。
    ましては、スピード、快適さ、!??
    まったく違う次元の話であります。(笑

  3. yuris22 より:

    こまちゃん

    ヴィンテージカー・レースには、エランに乗って岐阜から来た人もいたそうです。
    夏だったら茹ってますね(笑)

  4. yuris22 より:

    やーさん

    >この手のものは、乗ること自体が目的なんですね。

    確かに。タクシーなら5分で着くところを30分ぐらいかかりました。充分に堪能しましたよ(^^)

  5. たそがれ より:

    「男ってバカ!」
    と思いませんか? 「思ったのでタクシーで生還」でしょう?

    そうなんですよ
    なんか、どうでもいいゴミばかりに金と時間を費やす
    でも、それが「至福の時」・・・

    今は、大企業が日本の資源(人と時間とお金)を独占しているから、「文化」が生まれない。
    なさけない時代だ!

  6. yuris22 より:

    たそがれ様

    >「男ってバカ!」と思いませんか? 「思ったのでタクシーで生還」でしょう?

    もちろん思っていますよ、愛すべき馬鹿だなと。そんな可愛い少年が私は大好きです。

    タクシーで帰ったのは、翌朝の彼の出勤時刻を考慮してのこと。私を送ったら睡眠時間が確実に1時間は短くなりますからね。

    湘南のジモティは理屈抜きに天然です。見返りなど何も要らず、趣味の話で盛り上がり、いつの間にかみん白髪になってる。気取らず、長く付き合う仲間なのです。

    ビルの森の中で暮らしていたときとは価値観が変わりそうな予感がしています。

// この部分にあったコメント表示部分を削除しました
タイトルとURLをコピーしました